みんなではじめるSDGs

SDGs:Sustainable Development Goals

Vol.01 SDGsの達成は誰のためのもの?

今回は各目標の達成状況やこれからの課題について、
ナビゲーターのクリス・グレンさんとIRENE(イレーネ)さんが、
国際連合地域開発センター所長・遠藤和重氏にお聞きします。


■日本におけるSDGs達成度の2022年平均値(上段)と
 2015年から2022年までの変化率(下段)


グラフ

50%未満の目標は2と5の2つ。目標2は農業をはじめとした食料生産の低さが要因で達成度が低くなっている一方で、目標5はわずかに改善しているが、依然として最も達成率が低い状況が続いている。目標7は再生可能エネルギーの普及、目標17はSDGsへの取り組みが進んだことで、達成度の増加が大きくなっている。
出典 : 「2030年までの道筋:地方自治体SDGs達成度評価2023」国際連合地域開発センター/『地方自治体SDGs達成度評価』委員会

SDGs折返し地点の進捗状況
順調に推移しているのは15%

遠藤和重

国際連合地域開発センター(UNCDR)所長
遠藤和重氏

クリス 世界におけるSDGsの進捗状況を教えてください。
遠藤 国連が目標ごとにまとめたレポートによると、全体の15%くらいしか順調に推移しておらず、多くが停滞しているか後退しています。象徴的なのが目標2「飢餓をゼロに」です。コロナ禍、国際紛争などを背景にした食料の高騰により、発展途上国への安定供給ができなくなっています。このままでは2030年に6億人以上が飢餓に直面するというデータもあります。ジェンダーに関する問題も進んでおらず、職場における男女の平等実現までに140年要するとされるなど、多くの問題が残されています。
クリス SDGsはまったく進んでいないのでしょうか。
遠藤 そんなことはありません。例えばエイズによる関連死が半減したほか、アフリカ大陸ではいくつかの熱帯病が根絶されています。目標4「質の高い教育をみんなに」も少しずつ就学率が上がるなど、進んでいる目標も多くあります。
クリス 国際連合地域開発センターでは、日本の自治体の達成状況を分析したレポートをまとめられました。(上図、下図/レポートより一部抜粋)
遠藤 このレポートは日本の自治体ごとのSDGs達成度を「見える化」し、課題や成功例をもとに、目標達成に向けて有益な情報を共有するために作成しました。地域に目を向けた分析がされていなかったことも大きな理由です。お二人は日本におけるSDGsの状況をどう思いますか。
イレーネ 私がSDGsに意識を向け始めた頃はコロナ禍だったので、家の中でできることを考えてごみを減らしたり省エネを心がけました。そうしたアクションは続けていますが、レポートの結果を見ると、個人の行動だけでは限界があると感じました。SDGsを流行で終わらせず大きな波を作って行くためには、1人ひとりのアクションを広く伝えていくことも大切です。
クリス 日本におけるSDGsの認知度は90%を超えていると言われています。しかし、知ることと理解することは別であり、「SDGsって何?」と尋ねたとき、多くの人が詳しく答えられないことが問題だと考えています。レポートにおいて目標4は80%と高い達成率でしたが、SDGsの目的を認識し、実践するための教育がより大切になると思います。2030年まであと7年弱しかありません。ゴール到達にかなりハードルが高くなっていると心配しています。そこで重要となるのは、やはり教育ではないでしょうか。
イレーネ そうですね。自分ひとりではできないから、みんなでやろうよ!ということを、声に出せる知識を身に付けたいですね。

■達成度の都道府県分布(2022年/一部抜粋)


グラフ

[目標2]やや悪化。食料自給率や農漁業の産出額低下。都市部で低下が進み地域格差が拡大。[目標5]全国的に一律で低く変化も乏しい。全国的かつあらゆる分野での対策が必要。
出典 : 「2030年までの道筋:地方自治体SDGs達成度評価2023」国際連合地域開発センター/『地方自治体SDGs達成度評価』委員会

2030年の目標達成を目指し
取り組むこれからの課題

クリス・グレン氏

みんなではじめるSDGsナビゲーター
ラジオDJ / タレント
クリス・グレン氏

クリス 目標達成に向け、今後重要だと思われることは何ですか。
遠藤 SDGsの戦略レポートを監修した慶應義塾大学の蟹江憲史教授は「変革的な社会シフトがSDGs達成に不可欠である」と指摘しています。持続可能なシステムがイノベーションによって実現することが目標達成に必要なシナリオであるということですね。
クリス 今年10月には鶴舞公園に愛知県によるスタートアップの拠点「STATION Ai」が誕生することもあり、新しいイノベーションを起こすきっかけにしようと注目されています。
遠藤 私もスタートアップとSDGsの接点には注目しています。蟹江教授の言葉を借りると、トランスフォーメーションを起こすためにはゲームチェンジャー、流れを変え得る存在が必要で、まさにそれがスタートアップであると思います。彼らはSDGsを当たり前のことだと思っていて、社会課題を解決するために色々なアイデアを生み出し、サステナブルにビジネスを行っています。
イレーネ 私もスタートアップの勉強会に参加したことがあるのですが、SDGsに即した考えがものごとの前提でした。SDGsの達成には、そういう方々の支援が大切になると思います。
遠藤 GDPでいうと日本は世界の上位ですが、スタートアップではおそらくシンガポールの方が進んでいます。日本のSDGsの達成度ランキングも当初は15位くらいだったのが2023年は21位まで落ちました。もっと世界に目を向けることも大切です。
イレーネ ただ、SDGsは達成しなければならないことだと、ほとんどの人が言えるようになったことは素晴らしいことです。

クリス・グレン氏

みんなではじめるSDGsナビゲーター
ラジオDJ / タレント
IRENE(イレーネ)

遠藤 そうなんです。小さな頃からSDGsの視点を身につけた「SDGsネイティブ」を育てることがこれからはスタンダードになるでしょうね。
イレーネ あるお母さんが話していたのは、小学生の息子にどうジェンダーを教えようかと悩んでいたら、息子さんの方が一昔前の概念なんか無くて、逆に教えてもらうことの方が多かったそうです。子どもたちの方がよっぽど大人たちより進んでいることもあるんですね。
クリス 2030年を見据えた未来を考えると、 僕はAI(人工知能)などの先端テクノロジーが、人間の仕事の多くを奪う可能性があると思っています。それは目標8の「働きがいも経済成長も」にも関わる問題です。もちろんAIの進歩によって経済成長率のアップが見込める、新しい仕事やイノベーションが生まれるというメリットもありますが、人によっては「働きがい」を奪われる結果となる可能性もあります。いずれにしてもバランスが重要です。私たちはこれからどこへ向かうべきか、どんな未来を求めるのかを深く考えなければなりません。
イレーネ 私が興味を持つジェンダー、気候変動、難民問題といったことが特に達成率が低くてショックでした。SDGsの目標は私たちのためではありませんよね。私たちの次の世代のためです。子どもや孫の世代が苦労をする原因が私たちにあるって嫌じゃないですか。これからもっと自分ごととする意識をもてたらいいなって思います。SDGsの実現が誰のためのものかを考えたいですね。