みんなではじめるSDGs

SDGs:Sustainable Development Goals

Vol.01 SDGsアップデート対談

2030年の目標達成を目指し取り組むこれからの課題

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国際連合地域開発センター(UNCDR)所長
遠藤和重氏

クリス・グレン氏(以下クリス) SDGsが2015年の国連サミットで採択されてから目標達成の30年まで残り半分を切りました。目標の達成具合や、課題などについてどうお考えですか。
遠藤和重氏(以下遠藤) グローバルな視点から言うと、折返しの23年は直前までコロナ禍で、気候変動やウクライナの戦争など大きな局面がありSDGsも影響を受けました。22年のSDGs報告では、目標1「あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」が新型コロナにより、4年分以上の前進が帳消しになったとあります(※1)。国連関係のシンクタンクが発表したSDGs世界の進捗ランキングで日本は19位で、日本の一番の課題はジェンダーギャップとなりました。ほかに目標12「つくる責任つかう責任」、目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標14「海の豊かさを守ろう」、目標15「陸の豊かさも守ろう」の達成度が低くなっています。一方、目標4「質の高い教育をみんなに」、目標9「働きがいも経済成長も」、目標16「平和と公正をすべての人に」は達成度が高く、伸びているのはエネルギー関係の目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」です。再生エネルギーの比率が10年前は10%だったのが19年に18%になっています。一方でカーボンニュートラルはそのゴールが果てしなく遠い。進捗はしているけれども依然として課題であるということです。取り組みを見える化したり、活動を通してさまざまなステイクホルダーを繋げる取り組みが進んでいます。
クリス 僕も目標3「すべての人に健康と福祉を」や目標6「安全な水とトイレを世界中に」、目標16「平和と公正をすべての人に」について日本は進んでいるけれども、目標12「つくる責任 つかう責任」はちょっと遅れている気がします。例えば、僕のふるさとオーストラリアの学校では、紙ではなくタブレットを使って授業を行なっています。つまり、ほとんどがペーパーレス。日本でも、紙の再利用をはじめリサイクルの意識は高まってきている気がしますが、もっとやれることがあるように思います。遠藤さんは目標10「人や国の不平等をなくそう」について日本は進んでいると思いますか。
遠藤 日本では認識しづらいゴールですね。私は目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の延長線上に目標10があると思っています。平等と一言で言っても、雇用の体系とかLGBTQとか色々なことがあり、課題は多い。最近は世界の取り組みも随分紹介されるようになって、意識は変わってきていると思います。でも制度が変わっているかと問われると、まだまだですね。1は途上国の問題だと日本では思われていましたが、最近その認識が変わってきて相対的貧困率、子どもの7人に1人が貧困状態にあります(※2)。日本にとっても1は大事な目標ですね。

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みんなではじめるSDGsナビゲーター
ラジオDJ / タレント
クリス・グレン氏

クリス エネルギーも大きな問題です。最近ソーラー発電が増えてきましたが、まだ足りませんよね?
遠藤 そうですね。太陽光も風力発電も天候に左右されます。でもエネルギー供給技術はこの2、3年進歩しています。地熱発電もそうです。
クリス 日本は地熱発電が一番向いていませんか。太陽光パネルや風力発電の風車が山の上に並ぶ風景を見かけますが、環境や景観のこともあわせて考えていく必要がありますよね。
地域や社会への広がり、理解度など、SDGsは日本で浸透していると思いますか。
遠藤 SDGsアクションプランの2023に書かれていますが、SDGsの日本での認知度が8割を超えているという調査もあります。愛知県でも18年に豊田市がSDGs未来都市に選定され、19年に愛知県、名古屋市、豊橋市、20年に岡崎市、21年には小牧市、知立市、22年は安城市が選定されています。各自治体がプラットフォームを作ってSDGsが広がっているのは明らかです。教育の場でも広がり、就活生もSDGsをちゃんとやっているかどうかが企業選択の一つの視点になっています。
クリス 興味深い活動事例はありますか。
遠藤 面白い事例はたくさんあります。先程リサイクルの話が出ましたが、2月にカンボジアで「アジア太平洋3R(リデュース・リユース・リサイクル)・循環経済推進フォーラム」があり、廃棄物のリサイクルに取り組む名古屋市の企業が参加してくれました。そのとき思ったのはゴミをとにかく出さないよう、循環させる概念はアジアでも関心が高い。日本ではゴミ分別ってあまり日の当たらないビジネスでしたが、ポジティブに捉えられるようになってきました。
クリス 僕は、インバウンド観光アドバイザーでもあるので、世界の観光についてもいろいろとリサーチしていますが、旅行者の間でも「サスティナブルツーリズム」という考え方が浸透してきているように思います。たとえば、サステナブルな取り組みをしているホテルを選ぶ、というのもそうですね。僕が興味を持った海外の事例は、レストランで提供するブッフェの皿を3センチ縮めたら、食べ残しが20%減ったというもの。大量に取ってきて食べ残しが出るより、何度もお代わりに行ってもらって食べ残しが出ないほうが、いいですよね?ちょっとデザインを工夫しただけで、大きなアクションになる。こうしたデザインや考え方は、これからの観光業界に大切なことだと思っています。日本でも、こうした取り組みが増えるといいですね。
クリス SDGsに取り組む中で、国連地域開発センターが果たす役割はどんなことですか。
遠藤 SDGsの達成度をモニタリングする仕組みを作り、中部圏SDGs広域プラットフォームの中で公開しています。SDGsの進捗を地方にある国連組織として支えてきました。また、豊田市での取り組みを国連のハイレベル・ポリティカルフォーラムで発表するなど、国際会議の場で中部圏の良い例を紹介してきました。
クリス それは誰でもオンラインで情報を見ることができますか。
遠藤 できます。1年前の会議ですが、さかのぼって見ることができます。
クリス 僕は、日本の歴史や文化、特にサムライの時代の歴史文化に興味があって、いろいろと調べているのですが、昔の日本の生活はまさにSDGsだったと感じます。江戸時代は、物を大切にする時代でした。多くのものをリサイクルするのは当たり前。たとえば、城もそうです。名古屋城の西北隅櫓、別名清洲櫓は清洲城の天守を解体し、その木材を再利用してつくられています。ちなみに尾張徳川家は未来のために木曽でひのきなどの森を育てていました。それもまさにSDGs、森林の循環を考えていたからです。尾張徳川家はサステナブルな大名だといっても良いかもしれませんね。今はSDGsがトレンドのようになっていますが、昔は生活でした。そう考えると、昔の日本の生活からSDGsを学べるのではないかと思います。
クリス 一応、2030年がゴールとして設定されていますが、そこで終わりではないですよね?その先の未来をどう考えていけばいいと思いますか。
遠藤 日本もSDGsライフスタイルと言いましょうか、行動変容させるためにも、その後押しとなるインセンティブが必要です。事例として豊田市では市内企業のSDGs認証制度を設けています。もう一つはグローバルな視点で、日本がSDGsのモデル、お手本にならなければいけないと考えます。SDGsのさまざまな良いモデルを発信していく役割を果たすということです。今年はG7もありますし、25年には大阪万博があります。海外に向けて発信する機会は多いと思います。2050年、世界の人口が98億人になると予想されています。世界は引き続きSDGsを続けていかなければなりません。長期的な物差しとして使われていくと予想します。
クリス 2030年まで、あと7年です。SDGsがなぜ重要なのかを今一度、考える良いタイミングだと思います。SDGsをトレンドとして捉えるのではなく、新しい生き方、ライフスタイルであるということを認識してもらえたらと思います。
※1 Sustainable Development Report 2022(2022年6月)
※2 2019年、厚生労働省「国民生活基礎調査」